花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 ひやかすように言う綾人の横で小梅がよかったですね~なんて相槌をうっている。綾人の台詞にはカチンとくるものがあるが、小梅が嬉しそうなので不問にすることにする。
「ささ、千早さんも遠慮せずに食べてくださいね」
「うん」
 さっさと食べ始めている綾人の横で固まっている千早の皿に小梅がオニギリやサラダ、卵焼き、アスパラのベーコン巻き……と一通り入っているものを乗せてやる。
 こういう場は今の千早にとっては初めてのことに違いないから、きっと困っているのだろうという心遣い。女の子だから、という理由からだけではない、さりげない小梅の優しさ。そんなところが千歳をほっとさせる。そして、それはやはり千早もそうなのだろう。
 短く答えて箸をとった千早の表情が明らかに柔らかくなっている。
「そうやって微笑んだりすると、やっぱり千早さん、女の子ですよね」
「だよなー。千歳っちはそういう笑い方しねえもんな」
 口元を緩めた千早にいち早く気がついた小梅が同じく女の子特有のふわふわした笑顔で言うと、綾人がうんうんと強く頷く。
「……おいしい」
「よかったあ」
 一口、卵焼きを頬張った千早がそう呟くと、小梅は更に嬉しそうに顔を綻ばせた。
 和やかな光景を眺めながら千歳も小梅の弁当に手をつける。そういえば、昨夜は色々ありすぎて夕食を取っていなかった。今朝もそうだ。食欲をそそる彩りと匂いが空腹を思い出させて、がっつきながら……自分と一緒だった千早もそうだったはずだと思い出す。

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