春夜姫
「人間の体は取り戻せても、歌声だけは戻らなかった。仕方がない、僕の身が自由になるための対価だったのです」
夏空はそう言い、荷物から手提げの燈火を取り出しました。日がずいぶんと沈んで来ました。
「クロ」
呼ばれて、クロは足を止めました。
「疲れただろう、ありがとう。今日はもう、休める所を探しましょう」
一行は、魔の森の東側にいました。程よい場所を見つけると、夏空は木を集めて火を着けました。
春夜は丈夫そうな木の枝を拾うと、地面に何か書きました。火の傍と、それを中心に東西南北に四つ。
「何ですか」
「結界の魔法です」
見ると、その複雑な模様はほのかに光っています。
「姫は魔法使いでしたか」
「自分を守るための魔法の手ほどきを受けただけです」
声が出ない間に考えたのは、このまま声が出ない人生を送ることだったのです。せめて自分を自分で守る手段を身につけたのです。
夏空はそう言い、荷物から手提げの燈火を取り出しました。日がずいぶんと沈んで来ました。
「クロ」
呼ばれて、クロは足を止めました。
「疲れただろう、ありがとう。今日はもう、休める所を探しましょう」
一行は、魔の森の東側にいました。程よい場所を見つけると、夏空は木を集めて火を着けました。
春夜は丈夫そうな木の枝を拾うと、地面に何か書きました。火の傍と、それを中心に東西南北に四つ。
「何ですか」
「結界の魔法です」
見ると、その複雑な模様はほのかに光っています。
「姫は魔法使いでしたか」
「自分を守るための魔法の手ほどきを受けただけです」
声が出ない間に考えたのは、このまま声が出ない人生を送ることだったのです。せめて自分を自分で守る手段を身につけたのです。