春夜姫
ある日の昼過ぎのことです。
地面に残った、いんちき宝石商達のにおいを辿っていたクロが、はたと足を止めました。
それに続いていた夏空と春夜も足を止めます。
「どうしましたか、クロ」
春夜が尋ねます。クロは耳をピンと立てて、森の奥の方を見ています。夏空もそちらを見ましたが、何があるのかは分かりません。ただただ、暗い森があるだけです。
「姫、結界を」
用心のため、夏空は春夜に声をかけました。春夜は小さく頷くと、素早く魔法を施していきます。
「クロ、落ち着いて」
その結界の中に身を潜め、息も潜めます。
「ク……」
クロが向いた理由が、ようやく夏空にも分かりました。春夜にも、分かりました。歌です。美しい歌声が、森の中から聞こえてくるのです。
『日がさすところ
広がる希望
一かけらの夢
開け、開けよ
光よ満ちよ』