春夜姫
「僕の歌だ」
夏空が呟きます。
春夜は目を見開きました。
「一体誰が、どこで……」
こんなに美しい歌声を響かせているのだろう。そう息を詰めて森の奥を見つめていると、やがて北側から小さな人影が見えてきました。
いや、小さな人影に見えたのはほんの一時のことで、その影を先頭に、後ろには真っ黒いもやが竜巻のように渦を巻いて、あっという間に近づいて来たのです。その異様さに、夏空も春夜も声を失いました。夏空は、腕に抱いたクロが震えているのを感じました。いや、自分自身も震えていました。春夜は魔法が途切れないように手を握りしめています。夏空は春夜の肩に腕を回しました。春夜も震えていました。
春夜の魔法のおかげか、真っ黒な一隊は森の端にいる二人とクロの方を気に掛けることなく、森の中央をそのまま南へと過ぎ去っていきました。
春夜がその強い結界の魔法を解いたのは、もう日が大きく西に傾いた頃でした。
「姫、」
立ち上がろうとした春夜は膝に力が入らず、倒れそうになりました。夏空の腕の中に受け止められます。クウン、とクロも心配そうに春夜を覗きました。
「ごめんなさい、夏空様、こんな時に……」
「何を謝るのですか。姫のお陰であの禍々しいものをやり過ごすことができました。むしろ、姫にこんなに無理させてしまった、僕の方こそ謝らなければ」
春夜は浅く息をしながら、微笑みました。
「お優しい」
春夜は夏空の真っ青な瞳をじっと見上げ、それからクロの方へ手を伸ばしました。クロはその手のひらの下へ、自分の頭を差し入れました。
「夏空様も。クロさんも。お二人を守れるなら、これに勝る嬉しいことはありません」
春夜は、そのまま瞼を閉じました。
「春夜!」
夏空が叫びます。
春夜の体が、まるで夏空の祖国の太陽のように輝きました。夏空とクロが驚きの声を上げようとしたとき、春夜と夏空、そしてクロの姿は魔の森の端から消えました。
夏空が呟きます。
春夜は目を見開きました。
「一体誰が、どこで……」
こんなに美しい歌声を響かせているのだろう。そう息を詰めて森の奥を見つめていると、やがて北側から小さな人影が見えてきました。
いや、小さな人影に見えたのはほんの一時のことで、その影を先頭に、後ろには真っ黒いもやが竜巻のように渦を巻いて、あっという間に近づいて来たのです。その異様さに、夏空も春夜も声を失いました。夏空は、腕に抱いたクロが震えているのを感じました。いや、自分自身も震えていました。春夜は魔法が途切れないように手を握りしめています。夏空は春夜の肩に腕を回しました。春夜も震えていました。
春夜の魔法のおかげか、真っ黒な一隊は森の端にいる二人とクロの方を気に掛けることなく、森の中央をそのまま南へと過ぎ去っていきました。
春夜がその強い結界の魔法を解いたのは、もう日が大きく西に傾いた頃でした。
「姫、」
立ち上がろうとした春夜は膝に力が入らず、倒れそうになりました。夏空の腕の中に受け止められます。クウン、とクロも心配そうに春夜を覗きました。
「ごめんなさい、夏空様、こんな時に……」
「何を謝るのですか。姫のお陰であの禍々しいものをやり過ごすことができました。むしろ、姫にこんなに無理させてしまった、僕の方こそ謝らなければ」
春夜は浅く息をしながら、微笑みました。
「お優しい」
春夜は夏空の真っ青な瞳をじっと見上げ、それからクロの方へ手を伸ばしました。クロはその手のひらの下へ、自分の頭を差し入れました。
「夏空様も。クロさんも。お二人を守れるなら、これに勝る嬉しいことはありません」
春夜は、そのまま瞼を閉じました。
「春夜!」
夏空が叫びます。
春夜の体が、まるで夏空の祖国の太陽のように輝きました。夏空とクロが驚きの声を上げようとしたとき、春夜と夏空、そしてクロの姿は魔の森の端から消えました。