春夜姫
 声に出してから、夏空は自分の体が震えているのを感じました。

 夏空には母が二人います。
 夏空を産んだお母様は城内で亡くなりました。そして現れた女性が、父王の新しい后となり、夏空のお母上となりました。
 お母上は、実のお母様を失って気落ちしていた夏空たち三人の王子を励まし、慰めて、学問に向かわせました。世の中は広く、複雑であり、空は果てしなく広大で、計り知れない。その中にいくつかの普遍的なことがあって、その一つは、命ある生き物は生まれ、そして死ぬということ、命はつながっていくこと。人もその生き物の一つであるということ。
 古今東西の書物を紐解くだけでなく、色鮮やかな花や、賑やかに鳴き交わす鳥、美しい夕暮れの空を見ながら、お母上は王子たちに説きました。
 一番上の王子は、何も言わずに頷きました。お母様が亡くなったとき、その寝台の直ぐ側で王や大人達と共に最期を見届けたのは、三人の兄弟の中でこの王子だけでした。
 真ん中の王子は、「はい」と言って頷きました。お母様が亡くなったとき、真ん中の王子は自分の部屋で声を上げて泣いていました。
 一番下の王子――夏空は「うん」と言いましたが、お母上の話よりも、西の夕空のあまりの美しさに見惚れていました。お母様が亡くなったとき、夏空はそれが最期だとはわかりませんでした。明日も会えると思ってお母様におやすみを言って、夏空は自分の部屋で眠り、お母様は二度と目覚めませんでした。

「なぜ母上が、あんなに禍々しいものの先頭で、まるでそれらを引き連れているように見えたのでしょう」
< 111 / 111 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

翼のない天狗

総文字数/74,510

ファンタジー224ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
時は平安―― 二つの「異形」の物語 希に見る美しい容貌をした清青は 天狗を父に、人間を母に持つ。 ある日、友の天狗、深山に誘われ 人魚の氷魚と出会う。 天狗と人魚、 別々の生き物である二人の出会いは やがてそれぞれの生き方を変える。
枕草子・伊勢物語

総文字数/6,328

その他20ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
『枕草子』 『伊勢物語』 古典文学に 自分なりの解釈と脚色を加えました。 完結としていますが、 適宜更新する予定です。 また、全てサイトのブログからの転載です。 詳しくは【マイリンク】an orchidへどうぞ。
pp―the piano players―

総文字数/145,949

恋愛(純愛)359ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「先生、わたしも弾きたい」 「俺たちが先生の運命を捻曲げたんだよ」 *** 「先生」と、ピアノと、 ピアニスト達の愛情の物語。 │■■│■■■│ ┴┴┴┴┴┴┴┴

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop