春夜姫
「はっはっは。儂のことはどうでも良いのじゃよ。時に、どこへ行く、お若いの」
「北へ向かっていますが、どこという当てはありません」
 夏空は、おじいさんに城を出た訳を話しました。

「ほう、お前さんは王子かい」
 おじいさんは小さな目を丸くして驚きました。

「このまま北へ進めば森に入ってしまうぞ。ここらでは、魔の森と呼ばれている、恐ろしい森じゃ」
 おじいさんは声を潜めました。
「悪魔や魔女が住んでいるんですよね」
 夏空も眉をひそめて言います。おじいさんは難しい顔をしてゆっくり頷きました。

「奴らは、己のための悪さもするが、人間と契約もする」
「人間と契約」
 夏空は唾を飲みました。
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