春夜姫
 そうして、夏空はすっかり泥に塗れ、元の色は見えなくなりました。あのままでは夏空はとても目立ちますが、これではわかりません。

「北へ行きます」
 おじいさんはゆっくりと頷きました。
「まだ、見つけるべきものを見つけていません。それを探さなくては」
 夏空はしっかりと言います。

「それに」
 一度言葉を切りました。昨晩考えていたことを、もう一度心の中に並べます。
「北の国の春夜という姫君が、私のように声に魔法をかけられている、と魔女たちの話で知りました。その姫君に会えば、何かわかるかもしれません」

 おじいさんは、目を見開きました。が、すぐに気を取り直して言いました。
「気をつけて、としか、わしは言えぬ」
 いいえ、と夏空は首を振りました。
「また、会いに来てくれますか。今も、おじいさんに会えたから、進もうと決意することが出来ました」
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