春夜姫
「とんだことになってしまったな」
 おじいさんは夏空の話を聞き終え、ひげを撫でてそう言いました。
「おじいさんと別れて森に入ったのが、つい昨日のことだなんて信じられないくらいです」
 夏空が気弱な声を上げます。

「じゃが」
 おじいさんはドアのところまで行くと、そっとドアを開けました。わずかな朝日に照らされ、魔の森と呼ばれる森も、きらきらと朝露に輝いています。
「お前さんは、自由の身になった」

 夏空はとまっていた椅子を離れ、ドアの側へ飛びました。羽ばたきながら、じっと外を見つめます。
「どうすれば良いか、考えはついているのじゃろう?」

 夏空は外へ出ました。地面に降りると、その美しい青色の翼に泥を付けたのです。湿った土をくちばしで掘り、それを羽に塗っていきます。夏空が少しずつみすぼらしい色に変わっていくのを、おじいさんは黙って見守っていました。
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