春夜姫
「抜けたぞ」
夏空は思わず声を上げました。鳥の姿になって十日、ようやく魔の森から出ることが出来ました。
声に魔法をかけられたお姫様、春夜姫に会いに行こう。夏空は汚れた翼に力を込め、薄暗い雲が覆う空へと羽ばたきました。
そこは小さな村でした。見渡す限りの畑の中に、家がまばらに散っています。畑では冬の野菜が育っていましたが、それらは夏空にとって初めて目にする種類のものばかりでした。
豊かな国だ、と夏空は思いました。空模様こそ暗いけれど、人々は真面目で、懸命に働くのでしょう。この国も夏空の国と同じように、農作物や特産品、それを貨幣に換えたものが税として徴収されている筈です。この穏やかな光景は、税も然り、王の治世が適切に行われている証でしょう。