春夜姫
 その夜、夏空はクロと共に、納屋にいました。農具や猟銃がしまってある、小さな小屋です。そこに、ご主人がランプを持って入って来ました。

「こんな狭い場所ですまんな。お前たちが話す分には家の中でも構わないのだが、俺が喋ると女房に聞かれるから」
 ご主人はそう言って、壁にランプを掛けました。作業用の椅子に腰掛けて、夏空の方を向きました。

「話はだいたいクロから聞いたよ、夏空さん」
「夏空、で結構です」
 クロがふふふと笑いました。

「あの……どうしてご主人とクロさんは、そのように話が出来るのですか」
 夏空は、聞いても良いものかと戸惑いながら、恐る恐る尋ねます。
「儂もクロで構わない」
「命の恩人です、そう呼ばせて下さい」

 今度は、ご主人が笑いました。
「俺とクロが、魔の森深く、赤の魔女の元へ何度か行ったことは聞いたかな」
「はい」
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