春夜姫
「姫様をお連れした時に、強い魔法を目の当たりにしてしまった。魔法の気に当てられてしまったんだよ。それで、クロと話せるようになった」
 そしてご主人は、クロの頭を優しく撫でました。

「クロもう十九年も生きている」
「僕と同い年です」
 ご主人とクロは微笑みました。その瞳の様子はとても似ていて、どちらも静かにうるんでいました。

「人間とは寿命が違う。犬はそんなに長く生きない」
 クロの耳が少し下がっていました。


 ご主人が、ぱん、と軽く手を叩きました。
「本題に入ろう。姫様の話だ」

 夏空もご主人の方へ向き直りました。どこに行けば春夜姫に会えるかなど、もう少し姫君について知りたいと思ったのです。

「と言ったものの、俺に姫様のことを語る資格なんて……俺が案内したから、姫様はあんな目に遭ってしまったのに」
 ご主人は頭の後ろを掻きました。
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