春夜姫
「見ろ、間違いない」
 兄弟は夏空の美しい羽を前にして、顔を見合わせて不気味に笑いました。


 鳥籠に入れられた夏空は、馬の荷にくくりつけられ、町へ運ばれました。城下町です。城のすぐ傍に来ることが出来ました。
「だのに」
 夏空は窓の向こうに見える城を眺め、呟きました。

 ここは宝石を扱う店で、部屋の中には金や銀、様々な宝石が並べられています。外から見える部分はたいそう綺麗な造りですが、奥はぞんざいに荷物が置かれ、散らかっています。堅い商売をしている訳ではなさそうです。広げられた宝石の中には、本当に高価で美しいものを身につけて育った夏空には、一見して安物とわかるものが少なくありません。

 それでも兄弟たちは、高価に見える服をまとい、髪を撫でつけて愛想笑いを浮かべ、店に立っています。今も、赤い宝石を売りました。
 その客と入れ替わるように、厚手の外套の上からもそれと分かる、ずいぶん太った男が店に入ってきました。

「親ぶ……お帰りなさいませ、旦那様」
 兄貴分が揉み手して迎えます。弟分は「旦那様」の背後へ回って、外套を受け取りました。
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