龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~


  龍馬は多忙だった。薩摩藩邸で一泊すると、朝飯を食べさせてもらって食った。そのあと、岩倉具視の邸宅にいった。
 龍馬は「新政府を頼みまするきに」といった。
「まるでどこぞへ旅立つような口調じゃのう」
「そうきにか? まぁ、いくところは決まっちゅう」
「どこにいく」
「あの世……」龍馬は冗談をいった。
「あんたは死んじゃいかんよ。この国にとって大事な人材なんじゃから。死んだら馬鹿らしいよ」岩倉具視は諭した。龍馬が自決でもすると思ったらしい。
 龍馬は笑って「わしは死んだりせん。「海援隊」で世界にでるんじゃきに」
「世界? 大きいこというねぇ。坂本さんは」
「そこで、岩倉さん。薩長連合と朝廷を合体させてほしい。薩長軍が「官軍」となるように天子さま(天皇)に働きかけをしてほしいんじゃ」
「わかった。天子さまに上献してみよう」
「錦の御旗でも掲げたらいいきに」
「わかった」
 ふたりはがっしりと握手した。
  龍馬は、朝早く下宿を出て、京のあちこちを飛びまわって夜おそく帰ってくる。
「用心の悪いことだ」
 薩摩藩士の吉井幸輔は眉をひそめた。龍馬のような偉人は暗殺のおそれがある。せめて宿をひきはらって、薩摩藩邸にこい、という。
 龍馬は「藩邸なんぞにいられんき」と笑った。
「じゃっどん、坂本さんは狙われとるでごわそ。新選組や浪人たちに……死んだらつまらんでごわそ?」
「あんさんはわしのことがわかっちょらん。わしは丼を枕に寝る男じゃぜ」
 むろん彼は、新選組や見廻組が命を狙っているのを知っている。
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