龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~
「狙わせときゃいいきに」
龍馬にいわせれば、自分の命にこだわっている人間はろくな男じゃないというのである。「われ死する時は命を天にかえし、高き官にのぼると思いさだめて死をおそるるなかれ」 と龍馬はその語録を手帳にかきとめ自戒の言葉としたという。
「世に生を得るのは、事をなすにあり」
来訪者あり。
訪ねてきたのはお田鶴さまであった。
「こりゃあいかん」龍馬は起きてから一度も顔を洗ってないことに気付き、顔をごしごし洗った。「汚のうございますね?」
「顔をさっき洗ったばかりですが、やはり汚いきにか?」
「いえ。部屋です」
お田鶴は笑った。
……どうもこのひとにはかなわん。
龍馬は福井へ急いだ。
「もうちとゆるゆる歩けや!」同伴の岡本が頼んだが、龍馬は足をゆるめず、
「いそがなあ、ならんぜよ」という。早足になる。京の情勢は緊迫していた。
「わしには今度の仕事が最後になるがぜよ」
時代が龍馬を急がせていたといってもいい。
福井に着くと、龍馬は春嶽に「三岡八郎を新政府にほしい」という趣旨のことをいった。 春嶽はまゆをひそめ、「三岡八郎は罪人ぞ」という。
しかし、龍馬は三岡八郎の釈放と新政府入りを交渉で決めてしまう。
夜ふけて、いよいよ三岡が帰宅しようとしたとき、龍馬は手紙のようなものを彼に渡した。「なんだ?」
「わしの写真じゃき。このさきどうなるかわからんきに。万一のときは形見じゃと思ってくれ」
「そうか」
三岡は、龍馬の例の写真を受取り、龍馬の顔をじっと見た。暗くてよく見えなかったが、龍馬がどこかへ消えてしまいそうな感覚を覚えた。