龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~
「刀は駄目だ。それより、家の娘を嫁にしちゅうがかか?」
「嫁などいらん。それより刀みせとうせ」
「これという、刀はないきに」
嘘だった。豪商だけあって名のある刀が蔵にたんとある。
しかし、本家との約束で、龍馬には刀を渡さなかった。
……鈍刀だけもって発つか
龍馬が帰宅すると、兄の権平が「龍馬、才谷屋に何しにいったがぜよ?」といった。
「ほんの、遊びじゃ」
こんなに警戒されては策も尽きたか……龍馬は部屋で寝転がり一刻ばかり眠った。
手蝋燭をもってくる人物がいる。それを龍馬の部屋にいれ、行灯に火を移した。
「あぁ、なんだお栄姉さんか」龍馬はほっとした。
坂本家には女が多い。
一番上の姉が千鶴で、これは城下の郷士高松家に輿入れして二男一女の母である。三番目の姉が龍馬を育ててくれた乙女で、これも輿入れしている。
二番目の姉がこのお栄であるが、このお栄は不幸なひとで郷士の柴田家に嫁いだが離縁されて坂本家に出戻ってきていた。
……坂本の出戻りさん。
といえばこのお栄のことで、お栄は出戻りらしくせまい部屋で慎ましく生活していた。華奢な体で、乙女とくらべれば痩せていて、本当に姉妹なのか? と思いたくなる女性だ。「存じてますよ、龍馬。あなたの脱藩がどれだけ家族に迷惑をかけるかかわらないのですか?」
「そげんまでのんきじゃないき」
「脱藩したら二度とお国にもどってこれませんのよ」
「弱ったな」おとなしいお栄姉さんからこんな説教をうけるとは思ってなかった。
「じゃきに、わしは男じゃきに。野心をかなえるためには脱藩しかないんぜよ」