龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~
         7 池田屋の変



  数日後、龍馬は旅支度をした。
 塾生たちは長州にいくのだと思った。
「いや。わしは江戸にいくきに」
「旦那はなぜ東に? 京にいてはまずいんですかい?」藤兵衛がいぶかしがるのもむりはない。京では一触即発の変事がいつおきてもおかしくない。特に、長州は何かやらかすつもりである。
「わしは勝先生に頼まれて軍艦を工面しにいくんじゃ」
 龍馬は笑った。軍艦を手にして、天下をとるかのごとしだ。
「わしはこの乱世を一手におさめるんぜよ」
 いうことだけはおおきい。
 長州は何かやらかすつもりである。無駄死にではあるまい。かれらの武装蜂起は、幕府や日本を動かすかも知れない。しかし、三百年続いた徳川の世がわずか数十人の浪士たちだけで壊せるはずもない。これはいよいよ薩摩と長州をふっつけて、大軍にして幕府を恫喝するしかない。
  龍馬は江戸に着いてすぐ、千葉道場に入った。       
「兵法はすすんだか?」
 貞吉老人は即座にきいた。
「いや、別のことやっちゅうりますきに、いっこうにはかが参りませぬ」
「海軍に夢中になっているのであろう。さな子がまっておるぞ」
 貞吉はにやりと笑った。さな子は年頃の美貌の娘になっている。
 龍馬はさな子の部屋にいくと、「やあ!」と声をかけた。
「龍さん! あいたかったわ!」抱きついてくる。
「……乙女姉さんみたいな臭いがするきに」
「嫌いですか?」
「いや」龍馬は笑って「いい臭いじゃ。わしはこういう臭いが好きじゃ」
「では、さな子も好き?」
「じゃな」龍馬は頷いた。畳みにゆっくりと押し倒した。

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