龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~
十月三十日七つ(午後四時)、相模城ケ島沖に順動丸がさしかかると、朝陽丸にひか
れた船、鯉魚門が波濤を蹴っていくのが見えた。
麟太郎はそれを見てから「だれかバッティラを漕いでいって様子みてこい」と命じた。 坂本龍馬が水夫たちとバッティラを漕ぎ寄せていくと、鯉魚門の士官が大声で答えた。「蒸気釜がこわれてどうにもならないんだ! 浦賀でなおすつもりだが、重くてどうにも動かないんだ。助けてくれないか?!」
順動丸は朝陽丸とともに鯉魚門をひき、夕方、ようやく浦賀港にはいった。長州・奇兵隊に拿捕されていた朝陽丸は、長州・主のと詫び状とともに幕府に返されていたという。
浦賀港にいくと、ある艦にのちの徳川慶喜、一橋慶喜が乗っていた。
麟太郎が挨拶にいくと、慶喜は以外と明るい声で、「余は二十六日に江戸を出たんだが、海がやたらと荒れるから、順動丸と鯉魚門がくるのを待っていたんだ。このちいさな船だけでは沈没の危険もある。しかし、三艦でいけば、命だけは助かるだろう。
長州の暴れ者どもが乗ってこないか冷や冷やした。おぬしの顔をみてほっとした。
さっそく余を供にしていけ」といった。
麟太郎は暗い顔をして「それはできません。拙者は上様ご上洛の支度に江戸へ帰る途中です。順動丸は頑丈に出来ており、少しばかりの暴風では沈みません。どうかおつかい下され」と呟くようにいった。
「余の供はせぬのか?」
「そうですねぇ。そういうことになり申す」
「余が海の藻屑となってもよいと申すのか?」
麟太郎は苛立った。肝っ玉の小さい野郎だな。しかし、こんな肝っ玉の小さい野郎でも幕府には人材がこれしかいねぇんだから、しかたねぇやな。