龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~

 四月二十日、麟太郎は龍馬や沢村らをひきつれて、佐久間象山を訪ねた。象山は麟太郎の妹順子の夫である。彼は幕府の中にいた。そして、知識人として知られていた。
 龍馬は、麟太郎が長崎で十八両を払って買い求めた六連発式拳銃と弾丸九十発を、風呂敷に包んで提げていた。麟太郎からの贈物である。
「これはありがたい。この年になると狼藉者を追っ払うのに剣ではだめだ。ピストールがあれば追っ払える」象山は礼を述べた。
「てやんでい。あんたは俺より年上だが、妹婿で、義弟だ。遠慮はいらねぇよ」
 麟太郎は「西洋と東洋のいいところを知ってるけい?」と問うた。
 象山は首をひねり、「さぁ?」といった。すると勝海舟が笑って「西洋は技術、東洋は道徳だぜ」といった。
「なるほど! それはそうだ。さっそく使わせてもらおう」
 ふたりは議論していった。日本の中で一番の知識人ふたりの議論である。ときおりオランダ語やフランス語が混じる。龍馬たちは唖然ときいていた。
「おっと、坂本君、皆にシヤンパンを…」象山ははっとしていった。
 龍馬は「佐久間先生、牢獄はどうでしたか?」と問うた。象山は牢屋に入れられた経験がある。象山は渋い顔をして「そりゃあひどかったよ」といった。

  麟太郎は、わが息子ほどの年頃の家茂が、いとおしくてたまらない。
 彼は御前を退出したのち、龍馬たちにいった。
「あんな明敏な上様が、ばかどもに取り巻かれて、邪魔ばかりされ、お望みのようにお動きにおなりねぇのをみると、本当に涙がこぼれるよ」
 その”馬鹿ども”幕臣たちにはこういった。
「あいつらの心中は読めてるさ。鎖国なんてできっこねぇのを知りながら、近頃天狗党だのという過激派がはびこってるんで、恐れてるだけさ。しかも、その場しのぎに大言壮語しやがる。真に憎むべきは奴らだよ」                     
 麟太郎はこの年、安房守に出世した。安房とは現在の千葉県のことである。


  
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