初雪の日の愛しい人[短編]
 小学校2年の冬。
 とうとうその日がやってくる。

「わあ、雪!」

 手をつないで下校中だったあたしたちは、初雪を見た。
 信号が赤だったから、横断歩道の前で止まって、ひたすら空を見上げる。

 ぱらぱらと降ってくる小さな雪。
 まだ言葉をたくさん知らなかったあたしたちは、キレイキレイとしきりにそればかり言い合っていた。

「あ、青になったよ」

 そのときミシェルがそう言って、あたしの手を引いて横断歩道を歩きだす。
 
 そのとき、急に車の音がした。
 もっと前から音はきこえていたのかもしれないけど、あたしたちは初雪に夢中だった。

 …――ミシェルは、あたしの半歩前を歩いていた。たった、たった半歩前…。

 一瞬で、黒い乗用車がミシェルを連れ去った。
 手をつないでいたあたしは一瞬引っ張られ、転ぶ。
 だけど転んだだけだった。

 ――車にぶつかったのはミシェルだけだった。

 わけもわからないまま救急車や警察がきて、動かなくなったミシェルにしがみついたあたしを引き離そうとした。
 だけどあたしはミシェルから決して離れようとしなかった。

 …何を思っていたかは、覚えていない。

 ただ、救急車の中で必死に「行かないで」といっていた。
 ミシェルが遠くに離れていきそうなことは、本能かなにかできっとわかっていて、とてつもなく不安だった。

 …だけどミシェルは行ってしまった。
 
 病院につく、ほんの前のことだった。

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