初雪の日の愛しい人[短編]
「…――I Love You」

 いつの間にか傍まできていた彼女が、目の前で笑う。あたしも精一杯笑う。
 
 ちゅ

 唐突で、だけど自然なキス。
 空気が触れたような、ひどく感触のない…だけどとても優しいキス。

「うん、あたしも大好きだよ。――ミシェル」

「遠いけど、おうえん、しているね!」

「うん、ありがとう。…もう、忘れないよ、ミシェルのこと」

「ぜったい、わすれないで」

「…あいにきてくれて、ありがとうね」

「コチラこそ、…」

 彼女はたぶん、最後にありがとうといったけど、聴こえなかった。

 ――そこには誰もいなくなって、いつの間にか人が行きかっていた。

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