赤の世界
(僕は君を忘れた。)
(その名前さえも。)
付き纏う欠落感は
君の事だったんだね。
どうして忘れてしまったんだ。
君を想うと胸が焼けるのに。
こんなに激しい愛情を
俺は知っていたんだ。
楓に教えてもらった
あの優しい愛とは違う。
楓の教えてくれた愛情は
生きるための力をくれた。
君を見ると生まれる愛情は
死ねるほどの絆をくれる。
それなのにどうして
名前は浮かばないんだ。
(ごめんね。)
立ち尽くす俺の胸に
彼女がもたれかかってくる。
やっと触れることが出来たのに
夢の中だからか感覚がない。
(ごめんね。)
胸の中の彼女に何度も謝った。
(君の名前も忘れてしまった。)
ゼロの距離に彼女がいるのに
名前も呼べないなんて。
悔しくて動けない俺を見上げて
彼女は聖母のような
美しい微笑みをくれた。