魅惑のヴァンパイア
「シャオンは何もしなくていい」


 ヴラドは私の肩に手を置いて、ぐっと後ろに押すと、恐ろしい魑魅魍魎と向き合った。


「その声を聞いて分かった。王妃だな」


 ヴラドが言うと、黒い物体から大きな顔が現れた。


長い髪に翡翠色の瞳。


美しい顔の半分が焼けただれていた。


『私を愛さず、汚い人間を愛する憎い奴。お~憎い。憎くて堪らん。殺してやる。殺してやる』


「あなたはもう殺したでしょう。私の父を」


『なぜ私を愛さない。私はこんなにあなたを愛していたのに』


 会話になっていなかった。


王妃は、ヴラドのことを、自分がかつて愛した王と錯覚しているらしかった。


「愛していた? 他の男と契を交わしていたあなたを、どうして父は愛することができるのでしょう」


『お前が私を無視するからだ! 
私は寂しかった。せっかく家族と離れて嫁いできたのに、お前にはすでに愛する人がいた。
私の入り込む隙などなかった!』


 王妃は髪を振り乱し叫んだ。


愛憎を心に灯し続け、美しい顔の半分が焼けただれ、そして自ら命を絶った王妃様。


死んでもなお、憎しみ続けているなんて。
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