魅惑のヴァンパイア
「シャオン?」


 森に静かに響き渡る通った声。


 決して大きい声を出していないのに、その声はしっかりと耳に残り、脳を甘く刺激する。


 こんな声を持つ人物を、私は一人しか知らない。


「ヴラド?」


自分で名前を呼んで後悔した。


いるはずがない、こんな所に。


それでも耳に残る声に、鼓動がうるさく悲鳴をあげていた。


「シャオンっ!」


 小川の向こう側の木の間から、漆黒のマントに身を包み、銀白の髪を靡かせた人物が姿を現した。


そんなバカな……私は夢でも見ているの?


私達の間には、小川が流れているというのに、ヴラドは足が濡れることなど全く気にする様子もなく、水飛沫を立てながら小川を走って渡ってきた。


「シャオンっ!」


 力強く抱きしめられた胸の感覚。


 ほのかに香る甘い匂い。
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