多幸症―EUPHORIA―
『亜草くん、寝てるのー?』

 頭の上の方で、森野の明るい声が聞こえて来た。

 眼を開けると、眩しい笑顔がぼくの顔を覗き込んでいた。一体、短い間に何をしていたのか疑いたくなるくらいに、森野は息を切らして顔を真っ赤にしていた。訝しげにそれを眺めながら身体を起こすと、森野はぼくにかき氷を渡した。

 氷山に真っ赤なシロップがかけられたストロベリー味。

『はい。やっぱり、夏はかき氷ー!』

 森野は嬉しそうに声を上げながら、スプーンを持つ手を空に掲げた。

『でしょ? それなのにね、夏の海だっていうのにかき氷屋さん、一軒しかないんだよー』

 この暑い中、並んで買って来てくれたのか。

『ありがとう』

 ぼくは口に氷を含ませ、笑顔を浮かべた。
 すると、森野は嬉しそうに、にやけたような締まりの無い顔でえへへと笑った。
 常に欺瞞に満ちた笑顔を振りまくぼくとは違って、森野の笑顔は素直だ。だから、彼女の笑顔は眩しいのだろう。ぼくとは違う意味で、多くの人をひきつけるのだろう。
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