戦場駆け征く
『敵兵はどうやっても突撃をかけてくる。ある者は叫びながら、ある者は笑いながら、剣や槍や戟なんかを振り上げて走って来るんだ。逃げるしか出来なかった。
 戦わないと、と思ったのに。
 一緒に厳しい訓練を耐えてきた仲間の胸に矢が突き刺さる瞬間が見えたよ。新入りの俺に優しくしてくれた気の良い小隊長は四方から槍に突かれて血塗れで死んだ。友人達は俺に逃げろと言いながら首を斬られて死んだ。
 俺は逃げ回るしか出来なかったんだ…』
自嘲の声は、絶望を帯びていた。
漣犀は黙ってそれを聞いていた。首を抱いた手に思わず力が入っていたのだろう、彼は苦笑しながら『苦しい』と言った。
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