ラバーズキス
てるか?」
アツシが近くに来ている。会いに行きたい。
「今すぐ行くから。絶対に動かないで!絶対にそこでいて!」
あたしはそれだけ言うと電話を切ってセイジにワケを言って店を出た。
大学から歩いて10分が売りの店。走れば5分もかからない。あたしはアツシに早く会いたくて、走り出した。

大学の前に白い車が1台だけぽつんと止まっている。あたしは酔いが回ってきたけど、車まで走った。すると、運転席から人が降りてきた。アツシだった。
「何走ってんだよ。転ぶぞ」
アツシの笑顔にあたしは涙が出そうだった。
「アツシが電話もなしに来るからじゃん」
「しかたないだろ。顔見たくなったし」
そういうこと言われると、あたしは期待してしまうじゃん。でも、そんな思いはすぐに打ち破かれた。アツシの左手薬指に指輪が光っていた。
「どうした?」
アツシの左手があたしの頬を包む。触れる指輪は冷たく感じられた。あたしはアツシの手を取った。
「走ったから酔いが回ったかな」
「とりあえず、車に座れ。何か飲み物買ってくるから」
アツシはそう言って自販機に足を向けた。あたしは助手席に座った。
居心地が悪い。

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