オレの宝物。それは君の笑顔【完】
<高野慎一(たかのしんいち)>


オレは幼稚園の時からピアノ教室に通っていた。


北原は小さい時から自分の母親にピアノを習っていたが、母親が亡くなったため、小5の春、オレと同じピアノ教室に通うようになった。


北原のピアノを初めて聞いた瞬間、オレは衝撃を受けた。


技術の高さはもちろん、最初の一音から心をつかんで離さない、不思議な音色。


いつまでも聴いていたいと思った。


こんなふうに弾いてみたいと思った。




小学校を卒業するまでオレはピアノを続けたが、中学ではチェロに転向した。


北原のようにはなれそうもないことがわかったからだ。


同じ中学に入学し、オレはふたたび、北原に敗北感を味わわされた。


最初に行われた学力テスト。


オレは2番で、北原は1番。


勉強には自信があっただけに、悔しい思いをした。


ライバル――。


北原は、オレの「ライバル」だった。

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