エゴイズム。
仲西議員は対面側に位置する何百人の市民に向かって身振り手振りに訴え掛けているらしい。

残念ながら声は俺が潜む屋上まで届いていないが、感情的に身振り手振りを動かしているのはわかった。

俺は仲西議員の音の無い演説を見ながら、堂々とホラでも吹いているのだろうとだと思うと可笑しくなった。

そして、仲西議員と入れ替わり仲西雄大が教壇に立ち応援演説が始まった。

俺は、サテライトライフルを持った腕を屋上の柵に軽く乗せた。

「お前の正義を見せてみろよ」

そう呟き、俺はサテライトライフルのスコープを覗き込み、仲西雄大の姿をスコープ越しに見た。

声は聞こえはしないが、仲西雄大の口元が何かを噛み締めるように動いているのが分かった。

表情は白く無表情だが、口は仕切りなしに動いている、まるで仲西雄大に潜む別の生物に思えた。

仲西雄大の対面に座る市民は状況が読めていないのか仲西雄大をただ見つめている状態だ。

そんな空気を切り裂くようにSPが仲西雄大の方向へと歩み寄っている。

「そろそろだな」

と呟き、仲西雄大の急所に狙いを定めて合図を待った。

すると、仲西雄大は教壇の済に置いてあるペットボトルに手を掛けた。

「じゃあな、仲西雄大。お前の正義が実るように祈っているよ」

仲西雄大の心臓に向けて銃弾を放った。
そして、数十秒後に仲西雄大はSPに寄り掛かるように倒れ込んだ。


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