私に恋を教えてくれてありがとう【下】
検査開始5分前
華子は電気スタンドひとつしか明かりをつけていない
暗い超音波室でピッチを手に取り
牧田にコールした。
「******」
「……はい」
面倒臭くて仕方ない“はい”だ。
華子はそれにめげずにいつもより少し声高にした。
「あ、おはようございます
外来佐藤です
エコーお願いします」
「え!今日ついてくれるの?」
間髪をいれずに答えが返ってきた。
その声に面倒臭さは見当たらなかった。
「?はい?……あぁ……そうです
よろしくお願いします
もう最初の患者さん来てるので……」
牧田の声がころりと変わったので
何だかおどおどしてしまった。
しかも
“ついてくれるの?”だ。
「はい!すぐに行きます!」
今度は急患を待たせたドクターのセリフの様に
低く深刻な声でバシっときめ、
勢いよく電話が切れた。
「……なんだこりゃ」
華子は笑いを堪え、なんだか気持ちが和らいだ……。