ルージュの森の魔女
「これで終わりっと!」
太陽はすっかり西に落ち、辺りが夕闇に染まる頃、アリーナはルージュの森にひっそりと佇む小さな丸太小屋でアリーナは冬支度の準備に精を出していた。
少し前から始めていたヤクの肉の塩漬けもやっとの思いで終わらせ一息つく。
この日のために肉屋で買いこんだ大量のヤク(牛の一種)の肉は少女にとって相当の労力を強いるものだった。
しかし、肉や野菜にせよ台所に所狭しと置かれている食材は少女と猫一匹が冬の間食べていくにしては明らかに多い。
その光景を、端で見ていたクロードは辟易とした様子で深い溜め息をついた。
「…アリーナ……、まさか稼いだ金全て食材に使ったのではないだろうな…?」
答えを聞くのが恐ろしくて今まで黙っていたが、クロードは勇気を振り絞って少女に問い質す。
すると、アリーナは美しい顔に綺麗な笑みを浮かべて信じられない言葉を述べたのだった。
「ええ、もちろん!だって飢え死にしたくないでしょ?」
予想通り……というより、予想以上の答えにクロードは頭の中で血管がプチッと切れるような音を聞く。
「こぉの ばっかもんがぁ!!魔女が飢え死にするわけないだろうがっ!お前はあれだけ俺が苦労して採った薬草の金を全部食材にまわしたのか!? ぁあッ?少しは貯めることぐらいしやがれ!!!」
クロードの方が庶民染みた考え方をしていることは敢えて突っ込まないでおこう…。
しかしアリーナはそんな怒声も軽く流し、平然とした様子でのたまう。