ルージュの森の魔女



運命の歯車は廻る……



ギリギリと鈍い音を響かせて…








「やっぱダージリンにはアップルパイよね〜♪美味しそうに焼けてよかったわ〜」


……その頃、魔女の家では、シナモンアップルパイと紅茶の香しい香りが辺りに充満していた。
アリーナが腕によりをかけ客人のために作ったそれはまだオーブンから取り出されたばかりで白い湯気を出している。
食器をテーブルの上に並べているとふと感じた馴染みの気配にアリーナは満足げに微笑んだ。

「…アリーナ連れて来たぞ」

「ふふ、ご苦労様」

何処からともなく現れたクロードを抱き上げて頭を撫でる。
そして、目線をドアに向けると外にいる者に向かって優しく話しかけた。

「外は寒いでしょう?入っていいわよ」


その言葉の後、 「…失礼する」という低い声とともに三人の剣士の格好をした青年たちが入ってきた。
どれも入って来るなり驚いたように瞳を見開き、唖然とした表情でアリーナを見つめる。

――し、少女!?

――そんな、ウソだろ?

青年たちの目の前には自分たちと同い年くらいの少女が微笑みながら立っていた。
漆黒の長い髪を背中にながし、真珠のように白く透き通った肌をした彼女はアメジストのような紫紺の瞳と同じ藤色の長いワンピースを身にまとい、見る人全てを魅了するような妖艶さを漂わせている。
てっきり、伝説の魔女は老婆だと思っていた三人はいきなり予想が外れたことに内心動揺していた。
無論、表情には出してないが……


「……もしやそなたがルージュの森に遥か昔から棲むと言われる伝説の魔女か……?」

少し立ってから、真ん中に立つ金髪の青年が尋ねた。
「ええ、そうよ。もしかしてお婆さんかと思った?」
まるで心を見透かしたかのような言葉に、思わず口を紡ぐ。そんな様子にアリーナは意地悪っぽく微笑んだ。

「私の名前はアリーナ・ゼノクロスよ。見ての通り闇の魔術を専門としているわ」

そう言うと床までつきそうな艶やかな長い黒髪を手で払う。
さらさらと指から零れ落ちる純粋な黒色は闇の力の強さを現しているようだった。


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