リアル
坂部は、そう云った現実を目の当たりにし乍も、自分の担当している利用者だけでも、微力乍も満足行く介護が出来る様に、日々邁進すると云う覚悟を決めて日々を過ごしている。
「さて、帰るかな」
 坂部はMTBに跨りペダルを漕ぐ。体力勝負の仕事をしているのだ、日常から身体を鍛える事の必要性は痛感している。
「よし!」
 気合一発。坂部は元気な声を上げてMTBにスピードを乗せる。グングンと視界が流れ出し、顔に小雪が当たる。ゾクリと、身体の芯から来る寒さに負けない様に、坂部は刈り込んだ頭に毛糸の帽子を被り、自宅へとガムシャラに自転車を漕ぐ事にした。

索漠
「片桐、昼飯如何する?」
 同僚の黒田が声を掛けて来る。私はコートを脇に抱えて視線を向ける。小太りで愛嬌のある顔付き。そんな柔和なイメージのある黒田だが、一旦電話に一度出ると、鬼の様なトークで顧客を誑かす。
「いや、今日は半ドンだから帰ってノンビリするよ」
 身体が震える。薬の効き目が切れ出しているのだろう。懐からDMTを仕込んだ煙草を取り出し一服点けて肺に思い切り吸い込む。
「ヤクも良いけど、適度にしとけよ」
 黒田の忠告を背後に、私は軽く手を上げて歩き出す。MAX企画にはマトモな社会人はいない。それは黒田とて例外では無い。MAX企画に居る社員は、過去か現在のどちらかに、人には云えない闇の部分を抱えて生きている。だからこそ、必要最小限の言葉数で互いに分かり合える。
 先日の依頼を思い出す。拘置所の中の女を一人消す。普通に考えるのであれば不可能にも思える依頼だが、刑務所では無く拘置所に居るのであれば比較的容易い部類に入る。
―五年物でクリアだな
 頭の中で依頼に必要なキーワードを繋ぎ合わせて行く。私はそのキーワードに成るアイテムを入手する為に、情報屋から聞き出した男との待ち合わせ場所に移動する。
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