リアル
指定された店はムーンバックス珈琲と云う名で親しまれている、全国にチェーン展開している珈琲ショップだ。下手に洒落た店で会うよりも人目を避け易い。私は店内に入り、情報屋から教えられた携帯電話にコールする。傍から見れば只のビジネスマンにしか見えないだろうが、実際の遣り取りは非日常へと繋がる不の取引だ。私は携帯電話のコール音を聞き乍辺りに視線を走らせると、一人の男がヒラヒラと手を挙げた。
「おう、こっちや」
薄い照明の店内の端に待ち合わせの男が座っている。私はホット珈琲を注文して男の席に移動する。店内は適度に人が座り騒がしいが、今回の様な取引には日常に近い程、周りから怪しまれる事は無い。怪しい取引をするから、それに見合った怪しい場所で取引をすると云う考えは、メディアが作り上げた一種の幻想でしか無い。私はトレーに乗せた珈琲を手に、男に軽く頭を下げて「どうも」と挨拶をする。
情報屋から聞いていた風貌からは若干掛け離れている。名前は関和弘と有り触れた部類に入るが、本名か如何かは疑わしい物だ。扱っている情報やブツを考えるのであれば、もっと陰気な男を想像していたが、ストライプのシャツにジーンズを穿き、その上に紺のジャケットを着こなし、若干禿げ上がった頭。何処となく日本人離れしたイタリア人の様な雰囲気を醸し出している。
「あんさんが、片桐悠也さんでっか?」
「貴方が関和弘さん?」
互いに慇懃無礼な挨拶だ。私は対面の席に座り用件を切り出す。
「例の五年物、手に入りましたか?」
「俺を誰やと思っとるんや?」
「幾らで?」
「今後の付き合いも考えて、五本で手を打とうか」
一本十万として合計五十万円。足の付かないブツを入手するので有れば安い買い物だ。私はビジネスバックから封筒入りの札束を取り出しブツと交換する。
「即効性は?」
「折り紙付きや。青酸カリをベースに調合した特注やから、一口吸い込んだが最後、数秒後にはあの世へ一直線や」
「片道切符か、それは良いね」
「お前さん……」
「何か?」
「おう、こっちや」
薄い照明の店内の端に待ち合わせの男が座っている。私はホット珈琲を注文して男の席に移動する。店内は適度に人が座り騒がしいが、今回の様な取引には日常に近い程、周りから怪しまれる事は無い。怪しい取引をするから、それに見合った怪しい場所で取引をすると云う考えは、メディアが作り上げた一種の幻想でしか無い。私はトレーに乗せた珈琲を手に、男に軽く頭を下げて「どうも」と挨拶をする。
情報屋から聞いていた風貌からは若干掛け離れている。名前は関和弘と有り触れた部類に入るが、本名か如何かは疑わしい物だ。扱っている情報やブツを考えるのであれば、もっと陰気な男を想像していたが、ストライプのシャツにジーンズを穿き、その上に紺のジャケットを着こなし、若干禿げ上がった頭。何処となく日本人離れしたイタリア人の様な雰囲気を醸し出している。
「あんさんが、片桐悠也さんでっか?」
「貴方が関和弘さん?」
互いに慇懃無礼な挨拶だ。私は対面の席に座り用件を切り出す。
「例の五年物、手に入りましたか?」
「俺を誰やと思っとるんや?」
「幾らで?」
「今後の付き合いも考えて、五本で手を打とうか」
一本十万として合計五十万円。足の付かないブツを入手するので有れば安い買い物だ。私はビジネスバックから封筒入りの札束を取り出しブツと交換する。
「即効性は?」
「折り紙付きや。青酸カリをベースに調合した特注やから、一口吸い込んだが最後、数秒後にはあの世へ一直線や」
「片道切符か、それは良いね」
「お前さん……」
「何か?」