リアル
「一週間だ」
 簡単な事だと自分に云い聞かせる。私は詳しい方法の説明はせずに店を出る。明日は週末の土曜日で、仕事は半ドンで上がれるシフト制だ。ビルの屋上。真冬の澄んだ空からチラチラと雪が舞い落ちるのを背に、私は自分のマンションに帰る事にした。

「お疲れ様です」
 壁に取り付けられた時計は深夜の二十三時を指し示している。事務所ではバタバタと人が世話しなく動く中、坂部光一は帰宅準備を始める。有限会社鈴元ケアプランセンター。坂部はこの職場に就職して今年で一年に成る。紆余曲折の人生では有るが、今年、坂部は二十六歳に成る。それ迄には、家庭環境が原因で若干不良の真似事をしたりとアウトローを気取ったりもしたが、根が実直な性格の為か、結局の所チンピラ等に成る事も無く真っ当な道を歩む事に成った。
高齢出産の両親。その事が恥ずかしいと感じていた自分に、今は恥じる思いの方が強い。両親も今年で八十歳に成ろうとしている。つまり、坂部が生まれた時には、両親は五十歳に差し掛かると云う高齢だった。そう云ったバックボーンからか、坂部が最終的に選んだ道が、老人介護と云う仕事に進む事にした。老人介護とは、具体的には介護が必要な高齢者に対して、ケアマネージャーと呼ばれる者が、利用者一人一人、個別にケアプランと呼ばれるプランを作成し、日常生活にどの程度の介護が必要かを図り、その利用者に適したプランで日常生活の手助けを行う事を云う。表面を見る限りでは、社会貢献を行う上に、利用者からも喜ばれると云う素晴らしい物だと思うかも知れないが、現実的には、かなり厳しい現実に直面する事の方が多い。
2006年のデーターによれば、総人口から高齢者の割合を弾き出した場合、2015年には六十五歳以上の高齢者の人口割合は25.2%に達すると試算される。つまり、四人に一人が六十五歳以上の高齢者の社会に成ると云う計算に成る。この計算通りに社会が進んだ場合、日本としての財政と云う部分と、医療費の破綻と云う現実が浮き彫りに成り、現在、高齢者に対しての家庭レヴェルでの財政の圧迫は加速度的に進められ、そう云った現状が起因し、介護疲れから来る自殺や殺人、挙句の果てに介護担当者が老人をストレス発散で苛め抜くと云う殺伐とした現実が炙り出される。
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