飛べない鳥
その女性の頬を流れるのは、雨なのか涙なのか俺には分からなかった。



『……美咲?』



その女性は、肩を震わせた美咲だった。



美咲はゆっくりと顔を上げ、赤いウサギのような目で俺を見てきた。



季節は春のはずなのに、
冷たい風が吹いている。



まだ体が半乾きなのか、
少し寒気がした。


『…遥斗っ!!』


美咲が俺に甘えた声を出して、抱きついてきた。


俺はそれを両手で塞いだ。


『はっ?何?!』



美咲の体は思った以上に冷たく、先ほどより震えが強くなっていた。



俺はそんな美咲をほっとけなくなり、部屋へと入れさせた。



新しいバスタオルを美咲に渡し、濡れた体を拭かせた。


美咲が体を拭いている間、俺はレモンティーを温め、美咲の前に置いた。
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