飛べない鳥
俺は唯の方を見て、
笑顔を作った。



本当はこんな偽りの気持ちなんか言いたくないのに…


でも人の幸せを横取り出来ることなんか出来ない。


考えて、考えて…

この言葉を唯に贈った。



唯を見ると、一瞬だけ目を見開いて、でもすぐに元に戻った。



『遥斗…』



いつもより弱々しい声で俺を呼ぶ唯。


そんな唯を抱きしめてやることすら出来ない俺は、ただ偽りの笑顔を向けることしか出来なかった。


抱きしめる役目は、俺ではない。



『もうここには来ない…じゃあな…唯』



俺は唯の横を通り、
屋上から出て行こうとした時、唯が俺を呼び止めた。



『遥斗…違うよ…私…』




『ありがとな…』





─…バダンッ……



もうこの屋上へ来ることはない。


この場所は、俺の安らぎの場所だった。


でも自ら別れを告げた。



唯…ありがとう。
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