華の咲く場所
「あの少年とは、仲が良かったのかい?」


迎えに来てくれた車の中で、紅藤様の膝の上に座らせられて、そのまま抱きしめられながらそう聞かれた。

髪を撫でてくれる大きな手が心地よかった。

「いいえ、彼の片想いですわ・・・でも、私は彼に、救われていたのかもしれませんわね・・・」

私がそう言うと、紅藤様は眉間にむっとしわを寄せて、私に口づけようとしてきた・・・けれど、拒否する。

「・・・朱蘭?」

「もう、紅藤様ったら!私に何の相談もしてはくださらないのね!突然私をお抱きになって、突然自分はマフィアを束ねるボスだなどと教えられて!突然一位の座に上がったときだってそうです!どんなにびっくりしたことか!」

今までのことが爆発してしまった。

本当は身受けしてくれてありがとうとか、よき妻―――私、愛人になるのかしら―――になりますとか、いろいろ他に言うことがあるだろうに。

私の爆発をよそに、紅藤様は面白そうに笑う。

「だってそれが目的だったのだからね。不幸に身をうずめるお前が、身に余る幸福を手にした時、どうなるかな、と考えるだけで俺は幸せな気分になったぞ?」

私の隙をついて、器用に額や頬や瞼に口づけを落としてくる。

・・・結局観念するのは、私だった。

「・・・幸せすぎて、困ってしまうくらいですわ」

「おや、ではもっともっと大きな幸せに溺れさせてやろう。」

彼は私に触れるだけの長く優しい口づけをしてくれた。




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