愚者
逃亡生活を始めてから二十九年。振り返れば一瞬の事の様にも思えるが、流れた時間は果てしなく、一般的な生活で過ごした時間では無い為に、濃度と云う意味では濃過ぎる位だ。宿舎の有る土建業から夜の世界の仕事迄、一般的な仕事に従事する事が出来無い分、生活を支える収入源を確保する仕事は極限られて来るのは当然の事だ。過去を問わない仕事。私はそれだけを選び、土地を転々としては生きて来た。一般的な時効成立迄は十五年。途中で公訴時効の法的な変更は有ったが、私は十分な期間を逃げて来た。そう、逃げる事で自分の人生を捨てた。逃げ無い方法として自首と云う選択肢も有ったが、名乗り出る程の勇気の無い私は逃亡と云う選択肢を選び、数十年経った今でもその選択が正しかったのかは分からない。犯罪行為で得た金は、通し番号等が存在する新札で無かったのが幸いし、使用する事には困らなかったが、その代償として、一般的な幸せを捨てた。
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