愚者
看板は黒に白抜きの文字で『walk in the rain 』と書かれた看板を外に出し電源を入れる。直訳すれば、雨の中を歩くと云う意味に成るが、雨の日に私は人生の全てを失い、雨の日にこの店を引き受けた。そう云う意味では店の名前にはピッタリだと思う。逃亡生活をしていた私には本当に偶然だが、この店のベースに成る店の入り口に、住み込みのスタッフ募集が張り出されていたのを見て、私は迷う事無く応募したら即座に採用された。本当に単純な縁だ。オーナーである南條朝美は、七十代を後半に差し掛かっていると思われる年齢だが、詳しくは分からない。何処か気だるく、社会から浮いた存在と云うか、人間社会に真摯に向かい合い過ぎたが為に、酷く傷付いたと云う風に見受けられる言動や行動がある。