愚者
完璧な焼き加減のベーコンを皿に移し、トーストにタップリとマスタードとマヨネーズを塗りレタスを乗せ、その上にベーコンを乗せて三角形に切り皿に盛って出す。
「どうぞ」
 テーブルの上。ホットの珈琲とサンドウィッチが湯気を立てる。男は珈琲に砂糖を入れて掻き混ぜて一口飲む。
「良い腕してるじゃないか」
「そりゃ、どうも」
「お世辞じゃねえ。所詮は珈琲。されど珈琲とは良く云った物だ」
 男は仕切りに珈琲の味を褒め称える。こんな時はろくな事が起き無い。
「珈琲、好きなんですか?」
「毎日飲んでいるのさ。そのお陰かどうか知らんが、味には煩い方だな」
 男がニヤリと笑みを浮かべ、続いてサンドウィッチを手に取り頬張る。
「ふん。良い味を出すじゃないか。ベーコンの焼け具合とマスタードのヴァランスが絶妙だ」
「どれだけ誉めても、お会計を安くする事は無いですよ」
「そんな積もりは無いさ。美味い物に対して値切る程、野暮な性格は持ち合わしちゃいないんでな」
 男の真意が読み難い。一見の客にしては味に煩く観察力が鋭い。何処か探られている感じがする。私の全身が警鐘を鳴らすが、そんな私の思いは何処吹く風とばかりに、男は黙々と料理を平らげ、ナプキンで口元を拭うと緩やかに喋り出す。

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