愚者
禿頭の男の言葉に対し、突き刺す様な言葉を返す。その遣り取りを回りの男達は静観している。紫煙が室内に流れる中、男は煙草を揉み消し軽く肩を回して視線を全員へと走らせる。
「次はどうする?」
 端的な言葉だ。だが、男が発したこの言葉を受け、オールバックの男が懐から一枚の写真を取り出す。
「この子はどうだ?」
 セミロングの少女の写真がテーブルの上に置かれ、全員の視線が向けられる。
「どうせなら、今迄以上に趣向を凝らして見ても良いと思うがね」
 禿頭の男が進言すると、回りの男達も静かに頷く。
「遊びって云うのは、刺激に慣れてしまえば飽きてしまうからな」
 スキンヘッドの男が吐き捨てる様に云うと、全員が頷く。
「次は勝たして貰うよ」
 誰かがそう呟くのと同時に、男達は静かに酒を飲み不適な笑いを上げ続け、次の獲物に成る子の明暗を分ける主導権を誰が握るか、談笑する様に話し合い始めた。

 朝陽が街を優しく照らしている。早朝の街は忙しなく、仕事に、学校に向う人が足早に歩いている。
「行ってきます」
 少女は自宅の入り口で部屋に居る母に声を掛ける。大阪から関東に引越しをして来て数日が経った。元々は関東に住んでいたが、両親の仕事の都合で転勤を繰り返す生活を送っていた。
 笠原葵は、新しい街をマンションから見下ろし溜め息を付く。長く住んでいた関西ですらも二年と短期間だ。そう云った私生活が忙しない基盤は、一人の少女の心を閉ざすには十二分な環境だった。 
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