愚者
 元々社交的な性格と云う訳では無く、どちらかと云うと引っ込み思案に属する。そう云った性格が禍しているのもあるが、葵の心を打ち砕く決定的な事件は両親の離婚だった。葵の眼から見たとしても、両親の仲は決して良かったとは云えないが、体面的な事を理由に離婚はしなかったのだが、半年前、母が葵に離婚すると云う一言を伝えると同時にガラスの家庭は崩壊した。
 十四歳と云う多感な時期の家庭の崩壊は、酷く葵の心を掻き乱し、今迄以上に喋ら無い様に成ってしまい、そう云った心境の変化をクラスの幾人かが読み取ったのか、自然とイジメの対象へと成ってしまった。別段、葵が何か悪さをした訳では無い。だが、社会の仕組みと云うか、人間社会は弱者に対しては執拗なイジメを行なう。それがどれだけ理不尽だと思っていてもだ。
 葵に対してのイジメは精神的な攻撃から始まった。身体に肉体的な打撃を与えない精神的なイジメは、葵を緩やかに追い詰めて行った。教室に居る生徒三十人がイジメの加害者へと変貌する様に、葵は恐怖と絶望を覚えた。昨日迄は友達だった友人があからさまな態度で離れて行く。そうしなければ自分がイジメの対象に成ってしまうからだ。自己を守る為に離れて行く友人に、葵は何も云う事が出来ず、所謂「ハブ」と呼ばれる仲間外れから始まり、誹謗中傷の噂が流れて行った。母は、そんな葵の気持を汲み取る形で、環境を変える意味も込めて自分が生まれ育った関東に引っ越す事に決め、それからは慌しい日々が続き、転校・転入届を出し新しい賃貸マンションを借りると、夜逃げの用な勢いで引越しをした。
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