愚者
 何も悪い事をしていないのに。その言葉だけが四六時中頭を駆け巡っては葵の精神を徐々に追い込んで行く。不安・焦燥・焦り・孤独感。葵を取り巻く環境が足早に変わる度に、葵の心は摩滅して行った。だが、母の手前元気そうな姿を見せなければと云う、子供成りに出来る精一杯の背伸びをして、母の心を救う事を決心した。脆く儚いのが世の中の仕組みだと、そう思えば心が楽に成ると葵は自分に云い聞かせては一人涙に暮れていた。
新しい生活。気持の整理をして、今迄の事は過去の事だと捕らえて歩いて行けば良い。葵は朝から何度と無く繰り返して呟く言葉に身を委ねる様にして廊下に立つ。風が五階建てのマンションの葵が立っている場所を吹き抜ける。この侭、マンションの手摺を飛び越えられたらどれだけ楽に成るのだろうか。葵は不安定な心を胸に抱き、その思いを払拭する様に軽く頭を左右に降り、階下へと続く階段へと移動し、新しい学校へと向う事にした。
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