愚者
 肌寒い風が街を駆け抜ける。私はドアノブに『close a shop』のプレートを掲げて空を見上げる。抜ける様な空の高さが心地良い。私はジャケットの袖を直し散歩も兼ねた外出をする。        
 一本の電話が原因での散歩ではあるが気分転換には丁度良い。今月の売上を取りに来ると云ったきり店に姿を表さない南條へと届ける為だ。店を閉める直前に、店舗の電話に連絡が入り「今日は面倒だから、持って来て頂戴」と、手短な指示だけを残して通話を切られた。本当に気紛れなオーナーだ。だが、取り立てて遣る事の無い私には丁度良い外出の切欠に成るのも事実だ。店から歩いて数分程の場所に在る「マンション南條」へと向かい、私はオートロックのボタンを操作して、管理人室で有る南條の部屋を呼び出す。
「時雨です」
 インターフォン越しに名前を伝えると、ガチャリと扉が開く。茶色いレンガ調の概観はかなりセンスが良い。建てられて数十年が経過しているとは信じ難い小奇麗さとセンスだ。私は眼の前にある管理人室のドアを軽くノックすると、気だるそうな雰囲気を漂わせた南條が姿を表した。
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