愚者
「世の中と繋ぐには便利な道具だけど、その利便性と引き換えに失った物も多大に有るわね」
「何ですかそれは?」
「生きる事の大切さ。それと、利潤から来る幼児化ね」
 南條は面白く無さそうに顔を歪め、手馴れた手付きでパソコンを操作する。画面に映し出される文字を見ているとニュース速報と云う文字が躍る。
 振込み詐欺・飲酒運転・自殺・イジメ・賄賂等々、ざっと眼に飛び込んで来る情報だけを見ても、とてつもない量が掲載されている。
「私の若い頃から、画面に写っている問題が無かったとは云わないけれど、最近は特に酷いわね」
 ビールを手酌で注ぎ込み乍南條が溜め息を付く。私もグラスを空にして新しくビールを注ぐ。今日の南條は機嫌が良いのか、妙に饒舌に成っている。こんな南條を眼にするのは数ヶ月に一回有るか如何かだ。普段の南條は、何処か世間から浮いた存在と云うか、儚げな雰囲気と毒舌な喋りが特徴だ。
< 40 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop