愚者
少年の様な挨拶に葵は困惑の表情を浮かべ乍コクリと頷く。
「この世の終わりみたいな顔をしている見たいだけれど、何か嫌な事でもあるのかい?」
 葵の思いを置き去りに、小夜子は猛烈な勢いでアタックして来る。教室に居る生徒は、何時物事だとばかりに二人を残して教室を出て行く。
「あ、あの……」
 困惑した思いが思考を中断させてしまう。葵は泣き出しそうな顔に成り小夜子を見詰める。
「何がそんなに悲しいんだい?」
「そんな事は……」
「それに、君は忘れているかも知れないけれど、今日は僕達が掃除当番なんだ。帰られたら僕が困る」
「……御免なさい」
 葵は俯き加減で謝罪の言葉を吐く。悲しみの痛みから逃げる為に覚えた防衛本能が自然と発露してしまう。
「僕は別に君を責めている訳じゃないよ。それより、さっさと掃除をしちゃおう」
「……うん」
教室の中。葵と小夜子は箒を手に教室のゴミを集める。
「君はどうして何時もそんなに暗い顔をしてるんだい?」
 箒でゴミを掻き集め乍小夜子が葵に声を掛けるが、葵は上手く答える事が出来ずに泣き出しそうな表情に成る。
「ほら、テキパキ動かないと夜になっちゃうじゃないか」
 小夜子は教室の隅々迄テキパキとした動きで箒を掛け、塵取りでゴミを集めて屑篭に捨て、流れ作業の様にゴミ袋を縛り上げて手に持つと、葵の元にスタスタと歩いて来る。
「帰ろうじゃないか」
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