愚者
スツールに座り富田が注文して来る。非常に気まずい。この間の立ち回りを見られた事が禍したのか、それとも純粋に珈琲の味を気に入ってくれたのか、確立は五割と云う所だろう。
 ネルドリップで珈琲を抽出する。手間と云う点では面倒だが、美味い珈琲を作る為の私なりの拘りだ。長い時間を掛けて抽出する珈琲。豆は中挽きから中荒挽が最適だ。温かい湯気が立ち上り珈琲が出来上がる。私はカップを慎重にカウンターに出す。
「相変らず手間の掛かる作り方をするんだな」
「私なりの拘りですよ」
「ふん。確かに味は美味いがな」
 富田はブラックの侭で珈琲を飲み、煙草に火を点ける。
「この間は良い物を見せて貰ったよ」
「何か有りましたか?」
「惚けるのが下手だな。この場は認める方が懸命だぞ」
「さてね」
「まあ良い。しかし、お前さんのあの立ち回りは素人の動きじゃねえな」
「富田さんも、素人の刑事とは思えないですけどね」
「どう云う意味だ?」
「四課がお似合いと云う意味ですよ」
 皮肉の応酬だ。真意が分からない限りは、会話の本線を暈して逃げる方が良いのかも知れない。
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