愚者
「この店の珈琲は、何か薬でも入っているのか?」
「とんでもない。真っ当な珈琲ですよ」
「癖に成る味だ」
「最高の誉め言葉として受け取って置きますよ」
「ふん」
 富田は意味ありげな気配を匂わせ乍、財布から千円札を取り出し立ち上がる。
「本来ならお前さんを引っ張る事も出来るが、この店の珈琲を味わえなく成るのは淋しいんでな。不問にして置く」
「そりゃ、どうも」
「過去に何が有ったのか知らんが、気を付ける事だ」
 腹の探り合いだ。私は如何対処したら良いのか思案し乍シンク内に有る食器を洗っていると鈴を鳴らし乍店のドアが開いた。
「よう」
 関が何時もの軽いノリで店に入って来たが、富田の存在を見るや険しい表情に成る。
「こらまた、えらい場所で会いまんな」
「ふん。それは俺の言葉だ」
 険悪な空気が流れる。言葉の応酬からすれば、互いに知り合いと云うか、犬猿の仲なのかも知れない。
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