アリィ


五十嵐先生が戸惑った仕草を見せている。


昨日からずっと捜している逃亡犯が自ら現れたと思ったら人数が増えていたのだから、そりゃあ驚くはずだ。


しかも、その増えたひとりに、私は心当たりがある。


だって、あの内股、あのひよこ走り、あの前髪の触り方。


金髪縦ロールに短いスカートで姿かたちを変えても、あんなに激しいぶりっこなら一目瞭然。




アリィだ。




頭を鈍器で殴られたような気がした。


頭蓋骨が割れて脳みそがこぼれていくような錯覚におちいる。


実際、脳みそじゃなくてもこぼれていくものがあった。


あの細い目をもっと細めて笑う顔だとか、

休み時間の度にトイレへ誘うため私の制服を引っぱる手だとか、

生返事しかしない私を的にしゃべり倒すわずらわしい声だとか、

嫌悪感を隠さず黙る私の横にそれでも寄りそっていた肩だとか、


私が嫌って嫌って嫌い抜いて、いつのまにか体の一部になって、なくてはならないものになっていたものが、


ぼろぼろと跡形もなくこぼれ落ちていった。




今日もカナエ達は、五十嵐先生に連れて行かれてしまった。


いや、連れて行かれたというよりも、場所を移した、という印象。


カナエ達は不思議なほどどっしりと構えていた。


教室は大騒ぎだ。


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