Love Step
「ガキンチョ、着ている服はダサいけどお前可愛くなったな」


2人は丸いテーブルを囲んで座っていた。


なるべく峻から離れるように杏梨は座っている。


「わたし ガキンチョって言う名前じゃありません」


さっきからガキンチョ ガキンチョって、失礼な奴。

なんで付いて来ちゃったんだろう。


「なんて言うんだっけ?姉貴が言っていたの忘れた」


不機嫌な顔の杏梨を気にせずに笑いながら聞く。


「杏梨です」


「そうだ!杏梨だ 雪哉さんの義理の妹なんだろ?」


峻は屈託なく話しているが、杏梨は居心地が悪かった。


男性と2人で向かい合っているのにトラウマの発作は起きない。


それを喜ぶ気持ちも起こらない。


周りの人の目が気になったからだ。


黒の大きくロゴの入ったTシャツとビンテージジーンズの普通の格好なのに彼はモデルだけあって目立つ。


周りのテーブルに着いている女の子たちがこちらを見ながらひそひそ話をしているのが分かった。


人も羨む容姿だからもてるんだろうな……って、そんな事を考えている場合じゃなかった。


早く出なくちゃ。


杏梨はイスから立ち上がった。


「何してんの?」


突然立った杏梨に峻がポカンと見つめる。


「わたし、何も話す事ないですからっ 失礼しますっ!」


峻が呼び止めるのも無視して杏梨はカフェを出た。




「あ~ びっくりした」


カフェから少し離れると立ち止ってホッと息を吐く。


オーダーしたのに出てきちゃって悪い事しちゃったかな……。

ゆきちゃん、わたし 男の人に手を掴まれても大丈夫だったよ。


杏梨は生まれ変わった気がした。


ゆきちゃん、わたしもう大丈夫なのかな……。



< 108 / 613 >

この作品をシェア

pagetop